にじげん大塚
ロボットなのに、なぜこんなに愛おしくて涙が出るのか。
『おやすみ オポチュニティ』感想レビュー
「わずか90日の寿命」と言われたロボットが、過酷な火星で15年間も生き抜いたーー。
本作『おやすみ オポチュニティ』は、Amazonプライム・ビデオで独占配信されている、
実在の火星の無人探査車(ローバー)を追ったノンフィクション・ドキュメンタリー。
2003年にNASAが打ち上げ、最後は巨大な砂嵐に巻き込まれてその生涯を閉じるまで、
彼女たちが地球へ送り続けた驚異的な記録と、それを支えた人間たちのドラマが描かれている。
正直、宇宙開発の淡々とした記録映像だと思って観たら大間違いだった。
SF映画以上にドラマチックで、まさかロボット相手にこれほど目頭が熱くなるとは思わなかった。
特に印象的なのが、NASAのメンバーがこの探査車を単なる「機械」ではなく、
親しみを込めて「She(彼女)」と呼び、「双子の姉妹」の娘のように溺愛していた点だ。
だからこそ、彼女が火星の砂地で動けなくなった時のNASAの対処法には本当に感心させられた。
何億キロも離れた火星のピンチに対し、地球上でまったく同じ実物大のテスト機を用意し、さらに火星の現場の状況をジオラマのように完璧に再現して、どうすれば脱出できるか泥だらけになって検討していくのだ。
最先端の宇宙開発の裏側に、こんなにもアナログで、泥臭く確実な試行錯誤があるのだと知って、
その執念に本当に唸らされた。
また、彼女が送ってくる火星の写真の美しさにも驚かされた。

今でこそ、私たちはスマホで綺麗な写真を撮り、それを一瞬で遠方の誰かに送ることを当たり前にやっている。
だが、このオポチュニティが打ち上げられた2003年といえば、初代iPhoneが発表される「5年も前」の時代だ。
日本では『トリビアの泉』の「へぇ〜」や「なんでだろう〜」が流行り、私たちの身の回りといえば、
ガラケーにようやくカメラが付き始めたものの、その画質はまだ荒くおまけ程度。
旅行やイベントで「綺麗な写真を残す」となれば、
誰もがコンパクトデジカメを当たり前に手に取っていた、そんな時代である。
そんな、コンデジがようやく主役になったばかりの時代のカメラを積んだロボットが、何億キロも離れた宇宙から
現代の私たちが「これ、本当に火星? 実は地球のどこかの砂漠で撮ったんじゃないの?」と
一瞬疑ってしまうほどの超鮮明な写真を送ってきていたのだ。
当時のNASAの技術力が、いかに一般社会の何十年も先を行くオーパーツのようなものだったのかを思い知らされ、鳥肌が立つような衝撃を覚えた。
と同時に、「こんな場所、地球にもありそうだな」と思える身近さだからこそ、
「私たちが火星に移住する未来も、実はそう遠い話ではないのでは……」と肌で感じさせてくれるような,
なんとも不思議な感覚に包まれた。
このどこか親近感のわく赤い惑星の光景が
かえって「あの小さな女の子(ロボット)が、たった一人で健気に走っていたんだ」という、
とてつもない孤独とロマンを際立たせている。
ラストシーン、彼女が遺した最後のメッセージと、地球から送られた「おやすみ」の呼びかけには、
静かな感動と涙が止まらなくなる。宇宙のロマンだけでなく、「人と技術の温かい絆」を描いた、
本当に素晴らしいドキュメンタリーだった。