にじげん名駅
「描いてみたい」を大切に。水彩風の金魚イラストに込めた想い
☆夏の広報誌に使用するイラスト素材として、利用者様に水彩風の金魚を制作していただきました。やわらかな色の重なりと、ゆったりと水の中を泳いでいるような尾びれの表現が印象的な、
優美で涼しげな作品です。
今回の制作には、「以前から水彩表現に挑戦してみたかった」という利用者様の想いが込められています。作品が完成するまでには、技術的な試行錯誤だけでなく、ご自身の気持ちや体調と向き合いながら、一歩ずつ制作を続けてきた時間がありました。
今回は、利用者様が制作を始めたきっかけや、工夫したこと、作品を完成させて感じたことをご紹介します。
水彩への憧れから始まった今回の挑戦
利用者様は、もともと絵を描くことが好きで、事業所では主にサインデザインなどの制作に取り組まれてきました。サインデザインには、情報を分かりやすく整理し、文字や図形を正確に配置する力が求められます。一方で今回は、これまでとは少し異なる、手描きのような温かさを感じられる水彩表現に挑戦しました。
また、以前から水彩には憧れがあり、「いつか自分でもやってみたい」というお気持ちがございました。
しかし、水彩らしい表現をどのように作るのか、どのような手順で完成させるのか、最初は分からないことも多くありました。
そこで、すぐに描き始めるのではなく、まずはアナログ水彩に取り組んでいる方の制作を見学しました。白い紙の上に少しずつ色を重ね、形や濃淡が生まれ、作品として完成していく様子を見ることで、制作の始まりから完成までの流れを具体的にイメージできるようになりました。
「どのように描けばよいか分からない」と感じたときに、実際の制作過程を見て学ぶことも、大切な一歩です。
水彩らしい色の重なりをデジタルで表現
今回の金魚は、デジタルイラストで制作されています。デジタルでありながら、アナログ水彩のような透明感や、偶然生まれる色のにじみを感じられる作品を目指しました。
制作では、透明度を高く設定した水彩ブラシを使用し、薄い色を何度も丁寧に塗り重ねています。
一度に濃い色を置くのではなく、少しずつ色を重ねることで、水彩ならではのやわらかな濃淡が生まれました。色が濃くなりすぎた部分には、水を含ませた筆のような表現ができる「水筆ブラシ」を使用し、色をなじませながら調整しました。
また、デジタルツールの機能をただ使うのではなく、完成した状態を想像しながら、ブラシの透明度や色の濃さを細かく調整しています。
特に難しかったのは、「情報量を少なくすること」だったとのことです。細部まで描き込めば作品が良くなるとは限りません。水彩らしさを表現するためには、あえて描き込みすぎず、見る人が想像できる余白を残すことも必要です。
そして、どこまで描くのか、どの部分をぼかすのか、どこに濃い色を置くのかを考えながら、全体のバランスを整えていきました。
尾びれのグラデーションと遠近感へのこだわり
利用者様が、ご自身でも特にうまく表現できたと感じているのが、金魚の尾びれです。尾びれには、薄い色から濃い色へと自然につながるグラデーションが施されています。
水の中でゆらゆらと揺れているような、軽やかで透明感のある仕上がりになり、尾びれと背びれの位置関係にも工夫があります。
手前にある部分と奥にある部分で、色の濃さや線の見え方を変えることで、平面的になりすぎず、金魚の体に自然な奥行きが生まれています。
水彩らしいやわらかさを大切にしながら、金魚の形や遠近感も伝わるように仕上げられています。「我ながらうまくいったと思う」と感じられる箇所ができたことは、今回の制作で得られた大きな成果の一つです。
自分の作品の良いところに気づき、言葉にすることは、次の制作への自信にもつながります。
描く時間を重ねて生まれた「やってみたい」という気持ち
利用者様は、以前から絵を描くことが好きでしたが、心の調子によっては、描きたいと思っていても制作に取りかかることが難しい時期があったとのことです。
そのような中で、事業所では無理に完成を急ぐのではなく、少しずつ絵を描く時間を重ねてきました。
短い時間でも制作に触れ、自分のペースで作品と向き合うことで、絵を描くことへの抵抗感を少しずつ減らしていきました。
通所を始めてから約8か月。これまでの積み重ねを通じて、今回、「自分が描きたいと思っているものを描いてみよう」と思えるようになりました。
実際に水彩表現へ挑戦してみると、ご本人が想像していた以上に納得できる作品に仕上がり、完成したときには大きな喜びを感じられたと仰っていました。
一枚の作品が完成したことだけでなく、「挑戦してみよう」と思えたこと、そして最後まで形にできたこと自体が、とても大切な変化だと感じています。
無理をせず、自分のペースで続けていく
制作に取り組む中では、日によって集中しやすさが異なることや、描くことで疲れを感じることもあります。
利用者様は、そうしたご自身の状態も受け止めながら、「無理をせずに続けていきたい」と話してくださいました。毎回同じ時間、同じ量を描くことだけが継続ではありません。
描ける日に少し進めること、休むことを選ぶこと、作品を見て次の表現を考えることも、制作を続けるための大切な時間です。
ご自身のペースを大切にしながら、「また描きたい」と思える気持ちを育てていくことが、次の作品につながっていきます。
今回の金魚イラストは、水彩表現の技術だけではなく、利用者様がこれまで積み重ねてきた時間や、新しいことに挑戦しようとした想いが込められた作品となりました。
一人ひとりの「やってみたい」を応援しています
事業所では、イラストやデザインなど、一人ひとりの興味や得意なことに合わせた制作活動に取り組んでいます。
「絵を描くことが好きだけれど、何から始めればよいか分からない」
「しばらく制作から離れていたけれど、もう一度挑戦してみたい」
「自分のペースで、少しずつ得意なことを増やしていきたい」
そのような想いも、活動を始めるきっかけになります。
最初から上手に作ることや、短期間で完成させることだけが目標ではありません。見学すること、道具に触れてみること、好きな作品を探すことなど、小さな一歩から始めることができます。
今回の作品が、ほかの利用者様にとっても、「自分も何か作ってみたい」と思えるきっかけになれば嬉しく思います。これからも、一人ひとりの気持ちや体調を大切にしながら、制作への挑戦を応援してまいります。