にじげん名駅
すだれ越しに眺める、懐かしい夏の景色。見る人の夏の記憶につながる一枚を目指して
今回は、利用者様が制作された「風鈴の揺れる室内から、すだれ越しに外を見るイラスト」をご紹介します。
風鈴やすだれ、木々、川など、夏を感じさせるさまざまなモチーフが盛り込まれた作品です。
ただ風景を描くだけではなく、「まるで自分がその場所に立っているように感じてもらいたい」という想いを込めながら、構図や色、遠近感など細かな部分まで工夫して制作されています。
作品が完成するまでの考え方や試行錯誤について、お話を伺いました。

■ 風鈴とすだれを組み合わせたきっかけ
今回制作したのは、風鈴が揺れる室内から、すだれ越しに外の景色を眺めるイラストです。
制作の際には、資料として共有されていたモチーフ一覧から、他の作品との差別化を考えながら二つずつモチーフを選んでいました。
その中で目に留まったのが「風鈴」と「すだれ」。
どちらも窓辺にあるイメージがあり、「一緒に描くと相性が良いのではないか」と考え、今回の作品へとつながりました。
身近な夏のモチーフ同士を組み合わせることで、一つの風景として表現しています。
■ 思い切って俯瞰の構図に
特に工夫したところの一つが、作品全体の構図です。
参考資料には、対象物の全体が映る位置から真正面に撮影されたものが多くありました。
しかし今回は、そのまま描くのではなく、思い切って俯瞰の構図を選びました。
視点に変化をつけることで、作品に迫力を持たせるとともに、その場所に入り込んだような没入感を表現できたのではないかと感じています。
また、遠景にも中景にも緑が多く登場します。
同じような緑を使用すると景色同士が同化して見えてしまうため、色相や彩度に変化をつけ、それぞれの距離や場所が伝わるように意識しました。
■ 線画を使わず「色面」で木々を描く
制作の中でも特に難しかったのが、中景にある木々の描き込みです。
普段イラストを描く際には、しっかりと線画を描いてから色を塗っていきます。
しかし今回は、「色面で表現する力を身につけたい」という思いから、あえて線画を使わずに木々の表現へ挑戦しました。
線で葉の形を説明することができないため、一枚一枚の葉の位置や角度の違いを、明度や彩度を使って表現していきました。
普段とは違う描き方だからこそ、とても頭を使う制作になりました。
■ 遠くの景色をどう見せるか
作品の遠景には、実は山だけではなく、河原や川も描かれています。
ただし、それらをすべてはっきり描いてしまうと、手前と奥との距離感が伝わりにくくなってしまいます。
そこで、遠景にはガウスぼかしを強くかけました。
さらに空気遠近法も取り入れながら、「ここは遠くにある景色だ」と自然に感じてもらえるよう、何度も試行錯誤を重ねています。
描き込むだけではなく、あえて情報をぼかしたり弱くしたりすることも、奥行きを表現するための大切な工夫となりました。
■ うまく表現できた「すだれ」
今回、特にうまく表現できたと感じているのが「すだれ」です。
最初に直線ツールを使って平面的に描いたものをコピーして統合。
その後、作品全体の構図に合わせて自由変形やゆがみツールを使用しながら形を整えていきました。
さらにクリッピングを行い、暗い色と明るい色をエアブラシで重ねることで、すだれだけが浮いて見えないよう周囲の環境になじませています。
欄干や風鈴と組み合わせることで、「今見ている場所は室内である」ということも表現しました。
■ 明るさの差を意識して、見応えのある作品へ
もう一つ、今回うまくできたと感じているのが明度の表現です。
これまでは強い色を使うことに苦手意識があり、コントラストが低く、全体的にのっぺりとした印象になってしまうことがありました。
そこで今回は、
「手前をできるだけ暗く、奥へ行くにつれて明るくする」
ということを意識して制作しました。
明度の幅を広く使うことで、以前よりも奥行きが生まれ、見応えのある作品に仕上げることができたと感じています。
■ 絵の中に立っているような感覚を届けたい
この作品には、「見てくださる方に、絵の中に立っているような気持ちになってもらいたい」という想いが込められています。
作品の視点も、実際に人が立って景色を眺めているときの目線に近い位置を意識しました。
風鈴の音。
蝉の声。
川の流れる音。
そして、吹いてくる風の温度。
絵そのものから音や風が出るわけではありません。
それでも作品を見たときに、それぞれの方が持っている「夏の記憶」と結びつき、そうした感覚を思い出してもらえたら嬉しい。
そんな気持ちを込めて制作されています。
■ 次の作品では、さらに表現の幅を広げたい
今回の制作を通して、新しく見えてきた課題もあります。
筆のタッチが残ることで雑に見えてしまったり、描写に無駄が多くなり見づらくなってしまったりすることが現在の悩みです。
今後は、より滑らかで、見る人への負担が少ない塗り方にも挑戦していきたいと考えています。
そしてもう一つの目標が、明暗の幅をさらに広く使うことです。
コントラストを高め、より印象に残る作品へ。
これまで苦手としていた強い色も怖がらずに使いながら、表現の幅を少しずつ広げていきたいとのことでした。
■ 制作を通して、一つずつ新しい表現へ
今回の作品では、俯瞰構図への挑戦、線画を使わない木々の描写、空気遠近法による奥行き、すだれの変形や光の表現など、さまざまな工夫が取り入れられています。
普段の描き方をそのまま繰り返すのではなく、「今回はこの表現に挑戦してみよう」と考えながら制作していくことも、作品づくりの大切な過程の一つです。
夏の風景を眺めながら、風鈴の音や蝉の声、川の音、そして夏の風を思い出す。
この作品が、見る方それぞれの夏の記憶とつながる一枚になれば嬉しく思います。
作品づくりに興味のある方や、「自分も新しい表現に挑戦してみたい」と感じた方は、ぜひ見学や体験を通して、実際の制作の雰囲気をご覧ください。
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