にじげん守口

とある喫茶に行った朝【えんがわ みちこ】

とある喫茶に行った朝【えんがわ みちこ】

隣り町の喫茶に行く。
理由はここでは言えないが、
わざわざ行ってみようと思える理由がある。

自転車を東に漕ぐ。
このまま山をも越えるのではないかというほど漕ぐ。
相変わらずこの町は自転車で走りづらい。
歩道がまともにない。
うんうん、言いながら自転車を上下に揺らし、川を越え、真東に走り続けた先にその喫茶はポテっと在った。

ネオンライトが光るであろう看板には、店の名にちなんだ植物が緑一色で描かれている。

ひとりだということを伝える人差し指を立てて、私は出口に一番近い席に座り、トーストセットとアイスコーヒーを注文した。
450円、格安である。

ほどなく、子ども連れの三世帯家族が入ってきて、園児であろう男の子は水槽のある私の席の隣に座って動かない。
私は煙草を吸うからとカウンター席に移った。

カウンターから正面に見える棚には古伊万里のような大皿が仰々しく飾られており、主人(あるじ)がその前を通るたびに後光が差しているような存在感があった。
私は大学ノートを取り出し、昨日書きそびれた日記をつける。

途中、おばあさんが二人やってきて隣の席になった。
賑わってるわねぇとの会話が聞こえたので、「いつもは違うんですか?」と会話に滑り込む。
「来る時間帯も違うけど、今日は人が多いわ」

カウンターを越え料理が出てきた。
トーストはちょうどいい焼き加減にマーガリンが塗られており、サラダも新鮮だ。
食べ物がうまければうまいほど煙草もうまい。
わざわざ来てよかったなとアイスコーヒーをすすり一服に興じる。

日記もつけ終え、帰り支度をし会計を待っているとおばあさんが、
「隣でうるさかったやろ?ごめんねぇ」
と話しかけてくれた。
お喋り好きなおばあさんは大好きである。
「隣り町から来ました」
「まぁ!自転車で?!」
などと他愛無い話をし、
「また会いましょう」とアイドルのような顔を残し会計を終えた私は、演歌の流れる喫茶を出て山を背にまた自転車を漕ぎはじめた。

ちろりと晴れた六月のある朝の出来事であった。